捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~
「最後の朝は優雅に、ゆっくりホテルで食べよう」

「そういえばいつも外で食べていたので、ホテルの朝食はこれが初めてですね」

一緒にカフェに向かいながら和家さんをちらり。
きっとこのまま一緒にいたら、少しずつ好きになっていたんだと思う。
しかし彼とは今日でさよなら。
日本に帰ったら彼との関係は絶たれる。

朝日の差し込むカフェでの朝食も、最高だった。

「日本に帰っても元気でな」

「はい」

連絡先とか聞いたら、教えてくれるだろうか。
でも仕事すら教えてくれなかった彼が、簡単に答えてくれるとは思えない。
それに彼は、きっと住む世界が違う人。
たまたま、異国の地だったから彼とこうして知り合えただけ。

「初めて会ったときと違い、明るい顔になってよかった」

「和家さんのおかげです。
ありがとうございます」

今できる最高の笑顔で彼に返す。

「あのとき、和家さんに声をかけてもらえて本当によかったです」

巡り合わせてくれた神様には感謝を。
和家さんに出会えなければ、帰国しても落ち込んだままだっただろう。

「僕も李依に出会えてよかった」

眼鏡の奥で目を細めて笑った彼はどこか淋しそうで胸がずきんと痛んだが、気づかないフリをした。

朝食のあとは荷物の整理をし、和家さんに空港まで送ってもらった。
< 31 / 118 >

この作品をシェア

pagetop