捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~
まだ時間があるのでカフェでお茶を飲む。

「あの、本当にホテル代とかよかったんですか……?」

結局、最後まで私は一切お金を使っていない。
とはいえ、あのスイートの宿泊費全額は払えそうにないが。

「李依がこうして明るく笑ってくれるためのお金なら、安いもんだ」

和家さんは笑っているばかりでまともに取り合ってくれなかった。
申し訳ないという気持ちはあるが、いくら言っても彼は聞いてくれない。
ならば。

「その。
せめて、なにかお礼をさせてください」

じっとレンズ越しに彼の目を見つめた。

「じゃあ……李依からキス、してくれるか?」

私を見つめるその瞳は、私を試している。
……和家さんにキスをする?
そんなの……。

「別に無理強いはしない」

返事を躊躇っていたら、ふっと和家さんの周りの空気が緩んだ。

「……あの。
いいんですが、ここでは」

これはお礼なのだ。
あれだけしてもらっていて断れるわけがない。
それに……彼との最後の思い出が欲しい。

「そうだな」

とりあえず同意してくれて、ほっとした。
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