捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~
父ほどの年の社長が冗談を言っているようには見えないが、それでも本気だとは思えない。
私が営業や秘書ならわかるが、入社してからずっと経理一筋。
扱っている商品の説明なんてできない。
そもそもなんで、私をご指名なんだろう?
「初見さんは和家CEOの知り合いなんですか?」

「……違うと思います」

和家という名字は珍しいが……まさか、ね。

「そうですか。
とにかく、これには我が社の未来がかかっています。
よろしくお願いしますよ」

「……はい、わかりました」

社長は言葉こそ優しいが、私に拒否させなかった。
社長命令ならばもう、従うしかない。

その後、営業部長や秘書室長と綿密な打ち合わせをした。
明後日我が社を訪れるのは高級ホテル、ハイシェランドホテルのCEOだ。
日本国内だけではなく全世界展開しており、それ以外にも上ランクのビジネスホテルや他にいくつか展開している。
寝具メーカーの当社としては、もし商品の契約が決まればとんでもない売り上げになるはずだ。
上役たちが必死なのも頷ける。

――そして、当日。

「李依、ひさしぶりだな!」

「へっ?」

リムジンから降りてきた男にいきなり抱きつかれ、変な声が漏れた。
一緒にお出迎えしていた上役たちも思わぬ展開に固まっている。
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