捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~
「……ねえ。
あの人が」

「……ああ、例の」

こそこそ話す声が聞こえてきて、足を速めて経理部まで戻る。

「……面倒」

あっというまに私の噂が上書きされた。
ハワイで男から逃げられた女から、ハワイで浮気して結婚直前だった彼に別れを告げられた女に。
不名誉度は断然、後者が高くて、落ち込みそうだ。
一応、旦那になるはずだった男と別れたのが先で、そのあとに和家さんと知り合ったのだと説明はした。
しかし火はどんどん広がっていき、消火が間に合っていない状態だ。

仕事が終わり、和家さんに連絡を入れる。
迎えに行くと言われて断ったが、すぐに行くから絶対に待っていろって返ってきて無理だった。

「うーっ」

休憩コーナーで時間を潰す。
通りかかる人がちらちらと私を見た。
噂ってどれくらいでなくなるんだろう?
七十五日だっけ?
長いなー。
今ならいけそうな気がして、カロリーゼリーを飲みながらうだうだと考える。
仕事ってこのまま続けてもいいのかな?
……などと考えているうちに、和家さんから着いたと連絡が入って会社を出る。
表にはリムジンが止まっていて、朝と同じく人だかりができていた。

「お疲れ、李依」

「お迎え、ありがとうございます」

和家さんはわざわざ降りて、私を奥へ乗せてくれる。
とにかく早くこの場を離れたくて、なにも言わずにさっさと乗った。
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