捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~
追い出されるように車を降ろされる。

「こい」

どんどん歩いていく彼を慌てて追う。
すれ違うホテルスタッフのほぼ全員が、彼に頭を下げた。
真っ直ぐにエレベーターに向かい、乗る。

「あの……」

エレベーターの中、彼は壁に寄りかかり腕を組んでなにも言わない。
どこに連れていこうというんだろうか。
彼はいい人そうに見えたが、本当に私は騙されていた?
それならそれで、かまわない。

「入れ」

彼が私を連れてきたのは、スイートルームだった。
ここに泊まっているんだろうか。
リムジンに乗り、身に纏うのは仕立てのよさそうなスーツ。
いまさらながら彼の正体が謎だ。

「ハワイ滞在中、ここに泊まるといい」

「えっ、私、お金ないですから……!」

この旅行代と新居への引っ越し費用で、かなりのお金を使った。
それにあの人と別れた今、帰国したら新しい家を探して引っ越ししなければいけないし、少しでも節約したい。

「ハワイ滞在中の費用は僕が全部見てやるから心配しなくていい」

ソファーに座った彼が私へと目を向ける。
そこに座れという意味だと気づき、L字型ソファーに距離を取って腰を下ろした。
すぐに彼が身体をずらし、距離を詰めてくる。

「そんな、見ず知らずの方にご迷惑をおかけするわけには……!」
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