捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~
「そうですね、私も怖かったです」

けれど、真摯に話したらちゃんとわかってくれ、祝福してくれた。
とやかく言うヤツがいたら、俺がぶっ飛ばしてやるとまで。
いい父親で私は幸せだ。

「李依のお父上もお母上もとてもいい人で、温かくて……羨ましい」

「和家、さん?」

最後、ぽつりと落とされた言葉は酷く淋しげで、気になった。

「僕に両親はいないという話はしたよな?」

「……はい」

あのとき、和家さんにとって家族の話は地雷のようだったので、触れるのはよそうと誓った。

「物心ついたときから、両親は家にいなかった。
仕事を理由にしていたが、実際はどうだったんだか」

はっ、と吐き捨てるように和家さんが笑う。

「小学校に上がる前に、両親は離婚した。
珍しく家にいるかと思えば、どっちが僕を引き取るか、僕の目の前で醜く押しつけ合っていたな」

つらい過去のはずなのに、和家さんの声はおかしそうだ。

「育ててくれた祖母に恩はあるが、最後まで心は開けなかった」

後悔かのようにふーっと重い息を吐き出し、和家さんは目を閉じて深くシートに背を預けた。
ぽつんとひとり、家にいる子供の和家さんを想像したら、悲しくなってくる。
しかもやっと両親が家にいると思ったら、目の前で自分はいらない子だと言われるだなんて。
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