捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~
「ねぇ。
こんな話、知ってる?」

料理が出てくるまでの間に、暇つぶしなのかジャニスさんが私に話しかけてきた。

「ある卑しい女がお金欲しさに、セレブ男性に適当な嘘をついて同情を引いたんですって」

料理を食べる、手が止まる。
黙って彼女の顔を見たら目があった。
にたりといやらしく彼女の顔が歪む。

「同情した彼は女の面倒を見てやり、それでいい気になった女はさらに彼を騙して関係を結ばせた」

テーブルの上に両肘をつき、組んだ手の上に顎をのせて彼女は話し続ける。

「それでまんまと孕んだ女は、子供を盾に彼に結婚を迫った。
突っぱねればいいんでしょうけど、彼は優しい人なので子供のためにも女と結婚」

フォークを握る手に力が入り、食い込んで痛い。
しかしその痛みすら気づかないほど、気持ちがぐらぐらと揺れていた。

「女を愛してもいないし、こんなことになって同情した僕が莫迦だった、って彼は酷く後悔していたわ」

彼女の言葉がナイフになって、ドスッと胸に刺さった気がした。
おかげで息が一瞬、止まる。
悠将さんは陰で、そんなことを言わない人だってわかっている。
それでも動揺しているのは、私の弱さと不安な心のせいだ。

「まあ、誰の話かは言わないけど」

口角をつり上げ、ジャニスさんは勝ち誇った顔を私に向けた。
いろいろな感情がぐるぐると回り、なにも考えられない。

「……ごちそう、さまでした。
じゃあ」
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