捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~
彼が立ち上がり、スーツを整える。

「ああ、腹が減ってるよな。
ルームサービスでなんでも取るといい」

「それくらいは、自分でなんとかできます」

ドアに向かっていく彼を追う。

「だから、僕がこちらにいる間の費用、全部持つって言っているだろ」

「そこまでお世話になるわけには」

「ああもう、うるさいなっ」

いきなりぴたりと彼が足を止め、顔をぶつけそうになった。
くるりと振り返った彼が、私を見下ろす。

「まだガタガタ言うなら、そのうるさい唇塞いで、今度はベッドへ連れていくが?」

すぅっとレンズの向こうで彼の目が細くなる。
それは冗談には見えなくて、一歩後ろへ下がっていた。

「あ、それは、ちょっと」

「そうか、残念だ」

その声は心底残念そうで、さらにまた一歩下がった。

「なにも考えずになんて無理だろうが、ゆっくり休め。
おやすみ」

彼の足が一歩、私のほうへ距離を詰め、その意図に気づいてまた一歩下がる。

「それは、やめてください」

寄ってきた顔を、手で押さえた。
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