捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~
一刻も早くここから立ち去りたくて、まだ途中で食事をやめて腰を浮かせたが。

「待ちなさいよ」

彼女の手が私の手を掴んで引き留める。

「まだ話は終わってないわ。
それ、奢るから最後まで聞いていきなさいよ」

きっとこれは彼女が勝手に言っているだけで、悠将さんの言葉じゃない。
わかっているけれど、気持ちとは裏腹に身体は椅子に座り直した。

「そう、いい子ね」

まるで小さな子供にでも言い聞かせるように彼女が笑う。
まもなく彼女の頼んだ料理が出てきて、食べながらジャニスさんは話を再開した。

「私、今、あるホテルを買収しているの」

ジャニスさんが口にしたのはハイシェランドホテルグループのひとつで、中堅どころだった。
それがなくなったとなれば、悠将さんにはかなりの痛手だろう。

「まあ、慰謝料ってところかしら。
私と悠将は結婚するはずだったわ。
それが、こんなことになっちゃって」

はぁーっとわざとらしく彼女がため息を吐き出す。

「まあ?
子供ができたんなら仕方ないし?
悠将はとても優しいから責任を取らないなんてできないのは知ってるし?
悪いのは悠将を誑かした女じゃない?」

俯いてきつく唇を噛みしめた。
膝の上で拳を力一杯握り込む。
私が悠将さんに迷惑をかけている。
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