若頭、今日もお嬢を溺愛する
夜が更けて、ぐっすり眠っている杏子。
雷十は肘枕をして、杏子を見つめていた。
その表情は、切なく歪んでいた。
杏子の顔にかかっていた髪の毛を、優しく払う。

「ごめんね、杏ちゃん。
こんな俺が好きになってしまって……」

どんなに純粋に杏子を愛していても、雷十はヤクザ。
裏の世界の人間。
今日杏子を抱いて雷十は思う。

益々放せない……と。

【俺が雷十やみんなを、日の光に当たらせてやる!】

大悟がいつも言っていた言葉だ。
大悟は高校卒業後すぐ、会社を立ち上げわずか二年で軌道に乗せた。
その二年の間、亜子は杏子を妊娠し出産した。

子育てが落ち着いて、杏子が三歳になった頃。
大悟は本格的に、鶴来組を潰す計画を実行しようとした矢先に、亜子が亡くなったのだ。

亜子はまだ、18歳だった━━━━

あまりにも突然の出来事に、大悟はもちろん文悟、雷十も悲しみに暮れ、鶴来組を潰す計画も白紙に終わった。

【俺は、やっぱヤクザの息子なんだな。
結局、俺達は日の光を浴びることを許されないのかもしれない】
亜子の死を招いた奴等を殺した、大悟。
その時に呟いた言葉だ。

【杏、雷十の恋人になる━━━━
それは……けっして幸せにはなれない。
杏にとっては素敵な男でも、所詮雷十は数々の罪を犯してきた最低な男だ。
一生、日の光を浴びれないと思いなさい。
それでもいいなら、パパは何も言わない】
杏子が雷十の恋人になると決意し大悟に伝えた時、大悟が言った言葉。

“それは覚悟してるよ”
と言い、雷十と生きることを受け入れてくれた杏子。

だから雷十も、命懸けで守りたいと思っていた。

でもどこかで……
いつかは手放さなければいけない、と思っていた。

こんな汚ない世界に、杏子を置いてはいけないと。

実は杏子が、雷十に抱かれることを拒んでいたのが唯一の救いのように思っていた。
まだ、大丈夫。
今なら、放れることができる。と━━━━

きっと抱いてしまうと、もう…戻れないのはわかっていたから。
無理矢理杏子を抱きたくないと言いながら、本当は少しでも長く杏子の傍にいたかったのだ。

でも…後一日、後一日だけ傍にいたい……その気持ちがずるずると決意を鈍らせ、今日…一線を越えてしまったのだ。

もう、放せない━━━━━━

「だったらせめて…杏ちゃんのこれからの一生の怖いものや悲しいこと、苦しいことから、俺が守ってあげるからね……!」

雷十は杏子の首の下に腕を滑らせた。
そして杏子を抱き締め、眠りについた。
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