若頭、今日もお嬢を溺愛する
笹美があいていた杏子の前の席に座りながら、話しかけてきた。
杏子が持っている物を見て、話の途中で止め首を傾げた。

「手紙?」
「手紙だ」
「今時、手紙?
………………てゆーか、誰から?」
笹美が少し、退いている。

「さぁ?封筒には、何も書かれてないよ」
「捨てなよ、杏子」
「え?捨てるの?」
「だって、キモいじゃん!」
「そう?」
「それよりも!バレンタイン!!」
「あ、そうだね!」
とりあえず、手紙を鞄にしまった杏子。
笹美に向き直った。

「━━━━━━で、材料はこんな感じかな?」
「うん」
「杏子、買い物一緒に行ける?」
「雷十、夜なんだよね…仕事」
「だったら、夕方位から行く?買い物」
「でもそれじゃ、作るの遅くならない?」
「大丈夫よ。うちも今日、親は帰りが遅いの」
「そっか。じゃあ…雷十が仕事に出たら、迎えに行くね!」
「了解!あ、でも!あんま怖くない人にしてね!運転手さん」
「フフ…わかってるよ!」
必死で言ってくる笹美に、微笑む杏子。

「あ、ねぇ!もうすぐ昴も学校来るって言ってたんだけど、一緒にお昼どう?雷十さんも一緒で構わないから、どうかな?」
「え?雷十もいいの?」
「うん。だって、杏子だけはダメなんでしょ?」
「こそっと出れば……
雷十には、ゆっくり笹美といるって言ってるの。
だから、お昼過ぎにお迎えに来るはずだよ」

「じゃあ…もう学校、出る?
私達は、勉強しなくても大学決まってるし!」
「うん」
「じゃあ…昴に連絡するね!」
笹美が昴に連絡して、数十分後…再度昴から“もうすぐ門に着く”と連絡があり学校を出た杏子と笹美。

「杏子、あれ…雷十さん?」
「え?あ…な、何故!?」
門前に黒塗りの高級車が停まり、車の前に雷十が立って待っていた。

「杏ちゃん、お帰りなさい!早かったですね!
あ、もしかして!俺に早く会いたかったからですか?」
「なんで、いんの?」
「何でもお見通しって言いましたよね?
はい、帰りますよ!」
「やだ!」
「は?」
「笹美とランチして帰る」
「二人でですか?」
「え?」
「“二人で”なら、いいですよ?
もちろん店は貸切り、周りも部下で固めますが」

「雷十さん」
「はい」
「雷十さんも一緒なら、昴がいてもいいですか?」
笹美が雷十に声をかける。

「そうですね…昴だけですか?」
「虎太郎は来ません。今虎太郎、バイトしてて……今日もバイトだって言ってたので。
ただ、昴の友達が来るかもです」
「わかりました。
杏ちゃん、行きたいんですよね?」
「うん」
「俺も同行していいなら、いいですよ」

「ありがとうございます!」
笹美が微笑んだ。

「こちらこそ、ありがとうございます」
「え?」
「笹美さんには、感謝してます。杏ちゃんの友達でいてくれてる唯一の女性なので」
「私は、杏子のこと人として好きなので!当たり前です!」
笹美は、真っ直ぐ見上げて雷十に言ったのだった。
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