若頭、今日もお嬢を溺愛する
「おじぃ様、起きてる?」
文悟の部屋の前で、声をかける杏子。

「お嬢?」
中から、文悟の部下・浅井(あさい)が出てきた。

「おじぃ様に聞きたいことがあって…起きてる?」
「ちょっと、待ってくださいね」
再度中に入り、すぐに出てきた浅井。

「どうぞ」
中に促してくれた。
「杏子、体調は大丈夫か?」
「うん、大丈夫よ」
「そうか。良かった!
で?どうした?」
「おじぃ様がお得意様の呉服屋さんがあるでしょ?」
「あー手毬か」
「やっぱ、手毬くんとこなんだ!」
「で?」
「どんな人?」
「どんな?典型的な、良い家庭だな」
「へぇーそうなんだぁ!」
「俺達とは正反対の、幸せな家庭ってやつだ!」
「へぇー!じゃあ、いいかな?」
「ん?」
「おじぃ様、私ちょっと出てくる」

「は?今から?」
「うん」
「ダメだ!!もう、遅い!」
「え?誰かについてきてもらうよ?」
「そうゆう問題じゃねぇよ!」
「………うん、わかった」

そんな怒ることないのにな…と思いながら部屋に戻った、杏子。
部屋で、手毬に電話をかけてみる。

『はい』
「もしもし?手毬くんのスマホですか?」
『あ、はい…』
「私、鶴来です」
『え?え?鶴来さん!?
嘘…ほんとにかけてきた』
「え?かけちゃダメだった?」
『あ、いや!そうじゃなくて、普通…キモくてかけないだろうなって思ってたから』
「じゃあ…なんで、番号書いたの?」
『それは…1パーでもチャンスがあるならと思って…』
「でしょ?その1パーだよ!」

『ありがとう!』
「ううん。あのね、ほんとはちゃんと会って伝えるべきなんだけど……もう家出ちゃダメって言われてて……他の日はいつ会えるかわからないし、卒業式まで待たせるのは悪いしってことで、電話で話そうかなって!」
『あ、じゃあ…僕がそっちに行くよ!家の前まで』
「え?家、知ってるの?」
『あ、実は僕ん家、呉服屋で…君のおじぃさんへ着物を配達に父さんについて行ったことがあるんだ』
「あ、そうなんだぁ!じゃあ…待ってるね!」
『うん、30分くらいで着くから!また…!』

そして30分後━━━━━━
「お嬢、どちらへ?」
門に向かっていると、瓜生が声をかけてきた。
「門」
「は?」
「だから、門に用があるの」
「誰と会うんですか?」
「は?」
「だって、それ……」
杏子は、手に二本のペットボトルのお茶を持っていた。それを指差す瓜生。

「お友達」
「笹美さんですか?」
「違うよ!誰でも良いでしょ?門の前で会うんだから」

そのまま、門を出ていった杏子だった。
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