若頭、今日もお嬢を溺愛する
夏輝「あ、その声は…瓜生?
雷オジに言ってよ!今から“俺が”杏子の傍にいてあげるから安心してって!」

一方的に言ったかと思うと、通話を切ったのだった。

杏子「夏…輝…?」
夏輝「きっと……雷オジのことだから、会いに来てくれるよ?」

杏子「え?」
夏輝「俺なら……」
杏子「夏輝?」
夏輝「何を置いても、ここに駆けつける」

杏子「何言ってんの?」

夏輝「俺と雷オジは似てるからね!」

杏子「だからって雷十、仕事中だよ?」
夏輝「杏子の為なら、全てを犠牲にできるよ」

杏子「やっぱ、バカだ、夏輝」
夏輝「バカだよー!」
杏子「フフ…」
夏輝「あ、笑ってくれた!」
頭をポンポンと撫で、微笑み言った夏輝。

杏子「夏輝、ありがと!ちょっと、気が紛れた!
もう、寝るね!」
杏子も微笑む。


夏輝「なんでそんな……」
杏子「え━━━━━」
去ろうとする杏子の手首を掴んだ、夏輝。
そのまま引き寄せ、抱き締めた。

夏輝「杏子、好き…どうしようもなく好きなんだ、杏子…」

杏子「夏輝…ダメ!!離して!お願い!」
夏輝「わかってるよ?でも……少しだけ……」

夏輝の声があまりにも切なくて……杏子は強く振り払えない。

こんな弱々しい夏輝を、杏子は知らない。

学生の頃、最強とまで言われたチームのキング。
杏子にいつも“俺の雛ー!”と人懐っこい笑みを浮かべて近寄ってくる。
本当は誰よりも仲間思いで、優しい男。
仲間や大切な人を傷つけられると、悪魔が乗り移ったように相手をなぶる恐ろしさをもつ。

そんな夏輝の、切なくて、苦しくなる声。


杏子「ごめんね、夏輝。
私は夏輝と、ずっと仲が良い仲間でいたい。
勝手だけど……今までのままでいたいの」

杏子はゆっくり、夏輝を押し返した。

夏輝「━━━━━━━━キス…したい……」
杏子「は?何…言ってん…の…?」
夏輝「一度でいい。
これ以降、二度と言わない。
杏子の思う通りに、仲が良い“仲間”でいてあげる。
だから━━━━━━」

杏子「ちょっ…嫌!!」

夏輝に顎を掴まれる。
顎を掴まれてるだけなのに、びくともしない。
夏輝の顔が近づいてくる。

杏子はギュッと目を瞑った。

口唇が重なり、貪られる。

杏子(え……この感じ、雷十…?
…………そんなわけない。
でも、この感触……この息苦しいけど、酔ってしまうくらい気持ちいい……!
それに、匂い……匂い!?)

目を開けると、杏子は雷十とキスをしていた。

雷十「杏ちゃん、良かった……間に合った……!」
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