若頭、今日もお嬢を溺愛する
「俺は、亜子のこと本当に好きでした。
亜子は俺の初恋の人です。
本当に純粋で、心も綺麗で、思いやりもある。
……………でも、亜子は最初から大悟しか見てなかった。大悟に嫉妬して、嘘ついて、亜子を手に入れても、亜子の目に映っているのは“大悟”だった」

ゆっくり話し出した雷十に、杏子は雷十の頭を撫でながらただ…耳を傾けていた。



「亜子がいなくなればいいと思いました」



「…………え━━━?」

「亜子がいると、苦しくて、悲しくて、自分が自分じゃなくなる。いっそ、いなくなってほしいって……!」

「雷十……?」


「そしたら、本当にいなくなってしまった……」

「………」

「罰だと思いました。
俺が、嫉妬して、嘘ついて、いなくなれなんて願った罰だって。
だから、亜子の娘は“俺が”幸せにしてやるって誓ったんです」

「うん…」

「杏ちゃん」

「ん?」

「俺は、杏ちゃんを愛してます」

「え?」

「“鶴来 杏子”を愛してるんです」

「え?でも、雷十はママを………」

「どんどん、亜子に似ていく杏ちゃんを亜子に重ねていたのも事実です。きっかけも亜子の娘だからだし、初恋を思い出したのも、事実。
でも、俺は亜子に似てるから杏ちゃんを好きになったんじゃありません」

雷十が少し見上げて言い、杏子の頬を撫でた。

「杏ちゃんが、中学に入学した頃だったかな。
亜子と出逢った頃のこと思い出して……
思わず、涙が出た。
そんな俺に、杏ちゃんは頭撫でてくれて“大丈夫。傍にいるよ”って言ってくれた。
“私は、ここにいる”って。
その何気ない言葉が、どれだけ俺の心に響いたか……
その時に思いました。
俺は、杏ちゃんの為に生きていきたいって。
それからは、何故か亜子と重ならなくなったんですよ」

頬を撫でていた手が、口唇に移動する。

「雷十…」
「俺は、杏子を愛してる。
他でもない、杏子だけを……」

「……っ…」
杏子は言葉がでなかった。
涙が溢れて、止まらない。



今初めて、本当に……雷十の心を手に入れたような気がしていた。




「私…も…雷十を……愛してる…よ……!!」
言葉に詰まりながら、思いを伝える杏子。

「はい。知ってますよ!」

二人の口唇が重なる。
そのまま深くなって、二人はベッドに沈んだ。


二人は、今日初めて一つになっていた。

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