不毛な恋模様〜傷付いた二人は、輝く夜空の下にて熱く結ばれる〜

 紗世は波斗を目で追う。いつもの優しい笑顔でみんなと話している。少し前までは紗世もあの波斗先輩しか知らなかった。

 波斗が何人かの女子にグイグイ迫られ出した。困ったように苦笑いしている。

「あっ、波斗先輩が困ってる」

 紗世が言うと、二人もそちらを見る。

「もう少ししたらこっちに逃げてくるね」
「大和先輩も来ればいいのになぁ……それはないか……」

 その言葉の通り、波斗はあたりを見回し紗世たちを見つけると、女子たちに何か伝えてから走ってくる。息を切らしながら、波斗は紗世の隣の席に座った。

「みんないいところにいてくれて助かったよ〜!」
「波斗先輩、今日もモテモテですね。何言われてたんですか?」
「今夜飲み会があるんで来ませんかって」
「行かないんですか?」
「行かないよ〜。そんなにお酒強くないし」

 その時、紗世と波斗の目が合う。何故か急に息が苦しくなる。それを隠すように紗世は微笑んだ。

「波斗先輩といると、みんな癒されるんですよ。私も先輩といるとホッとするもの」
「あ〜わかる。私も先輩と話してると眠くなる」
「私も」
「……ねぇ、それって褒めてるの? けなしてるの? 複雑なんだけど……」

 あたふたする波斗を見て、紗世は吹き出す。

「もちろん褒めてますよ。先輩が卒業したら寂しくなっちゃうなぁ」
「紗世ちゃん……君はいい後輩だよ〜! 一緒に卒業しようよ〜!」
「いえ、それは無理なんで」
「つ、つれない……」

 紗世は三人の会話を聞きながら、そっと目を伏せる。目を閉じればあの日のことが鮮明に蘇るようだった。
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