不毛な恋模様〜傷付いた二人は、輝く夜空の下にて熱く結ばれる〜
私の体を滑る彼の指、肌にかかる息遣い、何度もキスした唇、私の名前を呼ぶ優しい声……思い出すだけで体が震える。
波斗先輩とのセックスが良すぎて、きっとおかしくなっちゃったのね……。
次に誰かとする時は、欲だけじゃなくて、ちゃんと愛のある行為にしたいな……。
そんなことを考えていたら、千鶴が急に立ち上がった。
「やっぱり私行ってこようかな。美琴ちゃん、健先輩に用があるフリして近付こう! お願いだからついて来て〜!」
「えっ……えーっ⁈」
大和のことが気になるのか、千鶴は美琴の手を引いて、先ほどまで波斗がいた集団の方へ駆けて行った。
突然二人きりになり、紗世は少し緊張してしまう。今までだって二人になることはあったのに、やはり完全にいつも通りは難しい。
「紗世ちゃん、もう大丈夫なの?」
波斗は千鶴を指差すと、心配そうに紗世の顔を覗き込む。
「まぁ少しは気になりますけどね……でも意外と平気です」
「そっか……。あっ、あと……体も平気だった?」
波斗は真剣な眼差しで紗世を見つめる。
「うふふ。大丈夫ですよ」
彼はホッとしたような表情になる。
「先輩こそ大丈夫ですか?」
「俺? うん、大丈夫。普段通りだよ」
彼の笑顔は安心感をくれる。
「先輩が卒業したら寂しいっていうの、嘘じゃないのよ。いなくなったら会いたくなっちゃいそう」
「紗世ちゃん……!」
「と言いつつ、案外慣れるのも早かったりしてね」
「紗世ちゃん……?」
本当にかわいい人……。なんで私は不毛な恋ばかりしてしまうのかしら。
* * * *
「紗世ちゃん、A&B食品に内定もらったんだって?」
美琴に声をかけられて、紗世はドキッとした。
「そうなの。大好きなカレーの研究がしたくて」
ずっと考えていた言い訳。練習通り自然に言えたはず。
「えっ! A&B食品って波斗先輩が就職した所だよね」
「そうなんだ〜。先輩がいるなんていいなぁ。またあの頃みたいに癒されたいわ〜」
私が波斗先輩を追いかけて試験を受けたなんて知られちゃいけない。
先輩が卒業してから会うことはほとんどなかった。波斗先輩の今を知らない。だからこそ、私は二回目の失恋をするかもしれない。
それでも……彼のそばに行きたかった。