不毛な恋模様〜傷付いた二人は、輝く夜空の下にて熱く結ばれる〜
 二人は歩いて近くのイタリアンのレストランに入る。向かい合って座ると少し照れくさかった。

「お酒は飲む?」
「いえ、明日も仕事だし。今夜はオレンジジュースでお願いします」
「あはは。紗世ちゃんらしい。じゃあ俺もそうしようかな」

 久しぶりの二人きりの時間。紗世はつい波斗を観察しながら、あれこれ考えてしまいそうになるのを抑える。想像するなら、目の前にいる本人に聞いた方ががいい。

「でもびっくりしたよ。噂の新入社員がまさか紗世ちゃんだったとは」
「なんですか? 噂って」
「ん? ……ううん、なんでもないよ。それにしても二年ぶりか〜。元気だった?」
「元気ですよ。就活と卒論で、先輩のいない二年はあっという間に過ぎちゃいましたけどね。先輩は?」
「元気だよ。昨年は子会社に出向というか修行に出てたけど、先月戻ったんだ。でも紗世ちゃんがうちの会社を受けてるなんて知らなかったよ」

 波斗の言葉に対して、どう返答しようか迷った。偶然を装う? それとも正直に言う? 

「私がカレー好きって知ってます?」
「知ってる。有名だったもん。あんなにかわいいのに、カレーオタクって」
「オタク……。まぁだからカレーの研究がしたかったの。仕事も趣味もカレーなんて最高じゃないですか。それに……」

 紗世は波斗をじっと見つめる。

「先輩が卒業して、やっぱり寂しかった。先輩は私の心のオアシスだったみたい」
「紗世ちゃん……」
「こんなに先輩想いの後輩、きっと私くらいですよ」

 その時、二人の元にドリンクが届く。

 先ほどの紗世の言葉が余程嬉しかったのか、波斗は泣き笑いでグラスを持つ。

「紗世ちゃんの我が社への歓迎の気持ちを込めて」
「波斗先輩との再会を祝して」

「乾杯」

 グラスとグラスが触れ合う音が響く。まるでスイッチが入ったかのように、紗世は波斗に触れたくなるのを抑える。

「そういえばみんなはどうしてる?」
「美琴ちゃんは病院の医療事務、千鶴ちゃんは保育園に就職して、それぞれバタバタしてますけどね。でも元気みたいですよ」
「そっか……なんか学生時代が懐かしいなあ……」

 紗世は波斗の顔が強張るのを感じた。きっと千鶴の名前が出たことで、気まずさを感じてしまったのだろう。

「千鶴ちゃんと大和先輩は今も仲良しですよ。最近は大和先輩の方が千鶴ちゃんに甘いみたい」
「そうなんだ……最近みんなに会えてないんだよね」

 波斗はそれっきり口を閉ざしてしまった。
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