不毛な恋模様〜傷付いた二人は、輝く夜空の下にて熱く結ばれる〜

 そう思っていると、波斗は自身のスマホを紗世の前に置いた。画面を覗き込むと、健からのメールが表示されていた。

『大事な話があるんだけど、今夜って時間ある? ちなみに大和たちも誘ってる。』

 波斗の顔を見ると、泣きそうな目で紗世を見つめていた。それを見ると紗世も辛くなった。

 原因はこれだったのね。

「このメッセージ……いつ来たんですか?」
「今朝電車の中で。とうとう来たのかな……この日が……」

 大事な話……。別れたという報告ならメールでも出来る。でも直に会ってということになると……。

 結婚。

「八割方その可能性が高いですね……」
「だよね……行きたくないなぁ……でも行くって返事しちゃったし……」

 机に肘をついて、両手で顔を覆う。行かない選択肢もあったはずなのに、波斗の性格上、理由もないのに断れなかったのだろう。

 理由なら本当はあるのにね……紗世は心の中でこっそり呟く。その報告を聞きたくないから、なんて言えるわけがない。

「場所は決まったの?」
「うん、ここ」

 メールには、会社近くの居酒屋のファイルが添付されていた。

「この近くにカフェがあったよね。私、終わるまでそこで待ってるよ」

 驚く波斗の手を握って紗世は続ける。

「言ったでしょ? 一人にしないって」
「紗世ちゃん……でも時間だってわからないのに、そんなところに一人で待たせたくないよ……」
「そう? ……じゃあうちに来る? ただちょっと遠いけど……」

 紗世がポツリと呟くと、波斗は驚いたように目を見開く。

「……行っていいの?」
「もちろん。でも違う話かもしれないでしょ? その時は普通に家に帰って大丈夫だからね。まぁ要は保険みたいなものよ」
「紗世ちゃんのこと、そんな扱いしていいの?」
「波斗先輩だけよ、そんな扱いしていいのは。先輩だけは特別なの」

 波斗が小さく笑う。

「ありがとう……」

 俺だけか……。自分だけが特別と言われたことがうれしかった。
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