不毛な恋模様〜傷付いた二人は、輝く夜空の下にて熱く結ばれる〜
その時インターホンが鳴る。
「はーい」
『あっ……俺です。波斗です』
ぎこちない話し方。紗世はいつも通りでいようと思った。
ドアを開けると、波斗が気まずそうに立っていた。不安そうな、緊張しているような、複雑な表情を浮かべている。
「お疲れ様」
そして紗世は波斗をぎゅっと抱きしめた。少しでも安心出来るように、笑顔で波斗を部屋の中へ招き入れる。
「何か飲みますか?」
「じゃあ……お茶があれば……」
波斗はキョロキョロしながら、部屋の真ん中に置かれたローテーブルの前に座る。
「なんか……ごめんね、急に来ることになっちゃって……」
落ち着かない波斗の隣に座ると、紗世はお茶のペットボトルをテーブルに置く。波斗の肩を抱いて引き寄せる。
「何言ってるんですか。そばにいるって言ったでしょ? 先輩も諦めて甘えてください」
紗世は波斗の肩を抱くと、波斗は力が抜けたように紗世にもたれかかる。紗世は波斗の頭を撫でながら黙っていた。
「健、やっぱり結婚するんだって。三才年上の彼女らしい」
波斗の声からは疲れが感じられた。
「胸が締めつけられて、息ができなかった。でも不思議とあの時は涙は出なかったんだ……」
「……今は?」
「えっ?」
「本人の前だから我慢したんじゃない? 今なら泣いてもいいんだよ」
紗世の言葉は魔法みたいだ。どこからか突然悲しみが湧き上がり、涙が溢れ出てくる。
声を上げて泣く波斗を紗世はずっと抱き締めていた。