不毛な恋模様〜傷付いた二人は、輝く夜空の下にて熱く結ばれる〜
紗世は本棚からお気に入りの恋愛小説を取り出すと、ソファに座って読み始める。一体何回読んだのかわからないくらい。甘酸っぱくて切なくて苦しい。今なら自分を重ねて読むことが出来る。
集中していたので、波斗が隣に座って雑誌を読んでいたことに気付かなかった。
「わっ、出てたの?」
「ちょっと前にね。紗世ちゃんって本を読み出すと、まわりが見えなくなるよね〜」
お風呂上がりの波斗はいつもメガネをかけていた。これは一緒に住むまで知らなかったから、初めて見た時はすごくドキドキした。もちろん今も。
紗世は波斗の肩に寄りかかり、彼の読んでいた雑誌を覗き込む。旅行本だった。
「どこか行くの?」
「うん、紗世ちゃんとどこか行きたいなぁと思って。行きたいところある?」
「……インド」
「カレーね。とりあえず国内でお願いしていい?」
波斗の笑い声が心地良く耳に響く。彼の体温が安心感を与えてくれる。
「ねぇ……それってどういう位置付けの旅行?」
紗世が言うと、波斗は困ったように口籠もる。
「傷心旅行……?」
「ふーん……」
そこで紗世ちゃんと行きたいからって言ってくれたら嬉しいのにな。きっとまだ私なんか健先輩に及ばないのね。
「先輩と一緒ならどこに行っても楽しそう」
紗世は目を閉じてポツリと呟くと、波斗の膝に頭を乗せて寝転がり、再び本を開く。