不毛な恋模様〜傷付いた二人は、輝く夜空の下にて熱く結ばれる〜
「なんかいっぱい話してごめん」
「いや、まぁいいんだけど……俺はどう反応していいかわからなくなってるよ」
「そりゃそうだよね」

 波斗は下を向いた。健の反応が少し怖かった。友達に戻れないことも覚悟していた。

「ただ……思うんだけどさ、お前って紗世ちゃんが初めての相手だろ? よくセックスまでいったよな。二人とも真面目だし、そんな簡単なことじゃなかったと思うんだよ。よほど相性が良かったか、どこか惹かれる部分もあったんじゃないか?」

 惹かれる部分。それは確かにあったかもしれない。紗世が入部した一年の時、少し影のようなものを感じた。それはどこか自分と似ているような気がしていた。

「どうかな……同調したような感じはあるかもしれないけど、それ以上のことはなかったかな」

 健の妹と仲が良かったため、自然と話す回数も増えていた。

 でもあの頃は本音というより、建前で話していた。

「それにしてもお前よくゴム持ってたな」
「健が俺の財布に入れたんじゃん。でも確かにあれは助かったよ」

 まさか全部使い切るとは思わなかったけど。

「で、今は紗世ちゃんとどういう関係なわけ?」

 波斗は一度口籠もり、悩んだ末に答える。

「俺のマンションで一緒に暮らしてる」
「はぁっ⁈ なんでそうなるの⁈」
「俺がそばにいて欲しいって言ったら了承してくれた」
「意味わかんね〜……。ちなみに一緒に生活して、体の関係もあるの?」
「……ある」
「あのさ、お前はどういう気持ちで紗世ちゃんを抱いてるわけ? ただ自分の欲求不満を解消するため?」
「それは違う!」

 健は真面目な顔になって波斗を真っ直ぐ見つめる。

「お前が俺を好きだったって聞いて、正直言って複雑だった。でもお前の気持ちはすごく嬉しいよ、ありがとう」

 健は頭を下げた。

「ただお前の話を聞いてると、途中から俺のことを好きなのかわからなくなってる感じがするんだよ」
「はぁっ⁈ どこがだよ!」
「最初にセックスした後に、紗世ちゃんのそばが心地良くて構いたくなるって言ったよな。調子に乗ってたとも言ってた。それって、紗世ちゃんは俺のものだ〜みたいな感じじゃん?」
「……」
「しかも一緒に住むって、自分のテリトリーに他人が入るってすごいことだぞ。それを言う方も言う方だけど、了承するのも心を許してないと無理だろ」
「そういうものかな……?」
「しかも普通に考えたら、一緒に住んで、体の関係もあるって、それは同棲だろ〜! と大きな声で叫びたい!」

 いや、充分大きな声で叫んでいた。

「お前はさ、どういう時に紗世ちゃんを抱くの?」
「どういうって……こう……ムラムラした時?」
「どういう時にムラムラするの?」

 最近のことを考える。

「ソファでさ、紗世ちゃんが俺の膝枕で本を読んでいた時とか、無防備な寝顔を見た時とか、お風呂上がりとか……」
「お前から誘うの?」
「……うん、まぁ……。でも紗世ちゃんは俺を慰めるっていうのが前提だから、ムラムラしたとは言えないんだけどさ」
「そういう時の紗世ちゃんってどんな感じ?」
「めちゃくちゃかわいい。ちょっと困った顔するんだけど、恥ずかしそうに受け入れてくれるんだ」

 思い出すだけで、その気になってしまいそうだった。

「そんなにかわいいんだ」

 健に言われ、波斗は改めて自分の感情と向き合う。

「うん、すごくかわいい。誰にも渡したくない。あの時の紗世ちゃんを知ってるのは俺だけでいいんだ」
「すっげー独占欲じゃん。お前相当紗世ちゃんのこと好きだろ?」
「あぁ本当だ。俺、紗世ちゃんのこと、すごく好きなんだな……」

 やっとわかった。これが恋なんだ。初めて自覚した。

「波斗、俺のこと好きになってくれてありがとう。でも俺にも大事な人がいるからお前の気持ちには応えられない。ごめんな。でもお前、俺よりも好きな人に出会えてたじゃないか。お前も幸せになれよ」
「はは、振られちゃったな」

 それなのになんとも思わなかった。むしろ清々しい。

「でもお前は一生俺の親友だからな!」
「うん、ありがとう」
「まぁ紗世ちゃんはだいぶ前からお前への想いを抱いてると思うから、早く気持ちを伝えた方がいいと思うぞ」
「そうなのかな……」
「就職先を決めた時にはたぶんそうだったんじゃないかなぁ。その間ずっとお前のそばにいてくれたんだろ? 健気だなぁ。一途だよなぁ」

 その言葉を聞いて自分の身勝手さに気付かされ、紗世への申し訳ない気持ちが溢れてくる。

「俺って最低……」
「これからいっぱい紗世ちゃんのことを大事にしないとな」
「うん……そうだね」

 一つの恋が終わり、新しい恋が始まる。
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