不毛な恋模様〜傷付いた二人は、輝く夜空の下にて熱く結ばれる〜

「波斗先輩……?」

 驚く紗世を、波斗は更に強く抱きしめる。

「……俺もなんだ」

 囁くような言葉が紗世の耳元で響く。

「俺もずっと不毛な恋をしてるんだ……」
「先輩も……?」
「そう。俺の恋も決して実らない。でも紗世ちゃんみたいに割り切れなくて、あいつに彼女が出来ても、好きな気持ちは変えられない……」

 顔は見えないけど、きっと悲しい顔をしてる……。そう思うと紗世も辛くなる。そっと波斗の体を抱きしめた。

「……好きでいることは自由じゃないですか。別に無理して諦めることはないですよ。私は次に進むために諦めるだけ。千鶴ちゃんのことを心から祝福したいもの」

 抱きしめられるってこんな感触なんだ……。体温が温かくて、彼の心臓の音がこんなにも近い。

 今日は一人で泣こうと思っていたのに、誰かがそばにいてくれることが、こんなにもホッとするなんて思いもしなかった。

「……私泣き始めたところだったんです。このまま泣いてもいいですか……?」

 その言葉で、波斗は紗世を抱きしめていることに気付く。

「わっ! ご、ごめんね!」

 そう言って離れようとする波斗を、今度は紗世が離さない。

「離しません。むしろ私を慰めて……」

 あんな風に抱きしめるから、それにすがりつきたくなった。

 波斗は戸惑いながらも、紗世をそっと優しく抱きしめる。

「今日は辛かったよね……俺で良ければ話し聞くよ。ずっとそばにいるからさ……」

 波斗は紗世の頭を撫で、背中をさする。

 その手が優しいから、紗世は声を上げて泣いた。しかし波斗が胸を貸してくれたため、声はほとんど漏れることはなかった。
 
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