不毛な恋模様〜傷付いた二人は、輝く夜空の下にて熱く結ばれる〜
紗世の受難2
「じゃあその方向で進めていきましょう」
「はい、お願いします」
 
 本社側の会議室での企画部との会議が終わり、紗世も資料をまとめ研究室に戻る準備をしていた。

「目黒さん、そこのサンプルも箱に入れて持ってきてくれる?」
「わかりました」

 みんなが退室した会議室は閑散としていた。資料として使ったサンプルを片付けていると、企画部の男性社員が一人入ってきた。

 確か|弦巻(つるまき)さんだった。波斗より年上で、企画部の主任を任されていた。

「あっ、すみません。もうすぐ終わりますので」
「あぁ、ごめんね。違うんだ。目黒さんにちょっと話があってさ」
「私……ですか?」

 弦巻は笑顔を見せたが、紗世はあまり好きなタイプではなかった。あの目つきが苦手なのよね。女性を見定めているような目。

 仕事は出来るし、端正な顔立ちは女性から好印象を持たれるだろう。

「なんでしょうか?」
「いや、君の噂はよく聞いているんだ。優秀な研究員が入ったって。企画部との打ち合わせは今後も増えるだろうし、良かったら親睦会でも開きませんかと君の上司に打診したんだが、良い返事をもらえなくてね」

 上司からは、今まで親睦会なんて開いたことはなかったのに、今年になって急に開こうと言われたと言っていた。それが紗世はあまり好ましく思わなかったのだ。

 自分が裏でいろいろ言われていることは知っている。でもそれで態度を変えてくるような人は特に信用できない。

「今は忙しい時期ですし、皆さんお子さんもいますから」
「そう、だからさ、君だけ参加しないか? もし一人が嫌なら、僕と一対一でもいいし」

 紗世は呆れて物が言えなかった。それって親睦会でもなんでもないじゃない。ただ下心見え見えの男と一対一で飲めと? はっ、無理に決まってる。

「すみません。一人なら尚更行けません」

 紗世がきっぱりと断ると、弦巻の表情が変わる。人を見下したような目つき。

「そんなに警戒するなよ。一階にご飯でも食べようっていってるだけじゃん。上野とはいつも一緒に食べてるんだろ?」
「先輩は長い付き合いなので信頼関係があるんです」
「だからその信頼関係を作るために誘ってるんだけど?」
「私はまだ研究室の下っ端です。何の利益もありませんよ。どうぞ先輩達を誘ってください。皆さんが了解すれば私も参加させていただきますので」

 弦巻は笑い出した。

「思ったよりかわいくないんだな」

 何様なの、この男は。

「そうですか? 私のことをかわいいって言ってくれる人はたくさんいますけどね」

 紗世はまとめた荷物を両手で抱えると、最上級の笑顔を見せた。

「では失礼します」

 なんて不愉快な人。紗世はイライラを隠せず、エレベーターのボタンを拳で叩きつけた。
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