不毛な恋模様〜傷付いた二人は、輝く夜空の下にて熱く結ばれる〜
* * * *

 外回りから帰った波斗は、補佐の関根と一緒にエレベーターを待っていた。

「思ったより時間かかっちゃいましたね〜」
「そうだね。とりあえず早めに報告書を作っちゃおう」

 エレベーターが到着し、たくさんの人が降りてきた。その中に紗世の姿を見つけ、波斗は心が弾んだ。

「紗世ちゃん! あれっ、会議か何か……」

 紗世の顔を見て波斗は言葉を詰まらせる。泣きそうな、不機嫌そうな、いつもの紗世ではなかった。

 紗世は波斗に気付いたはずなのに、彼を無視して研究室用のエレベーターの方向に歩き出す。

 何かあったのか?

「上野さん、行きますよ」

 先にエレベーターに乗っていた関根な声をかけられるが、波斗は迷わず紗世を追いかけた。

「ごめん! 先に行ってて!」
「えっ、上野さん⁈」

 波斗は紗世を追いかける。

「紗世ちゃん! どうしたの? 何かあった?」

 エレベーターホールで到着を待つ紗世の肩を掴み、波斗は自分の方を向かせる。紗世はこの上なく不機嫌な顔をしている。

「今は仕事中だから……」
「でも……!」
「……じゃあ一つだけ」
「な、何⁈」
「私って思ったよりかわいくないの?」

 それを聞いて波斗は固まる。

「な、何言ってるんだよ! 紗世ちゃんはかわいいよ! すごくかわいい!」

 それを聞いて紗世は少し落ち着いたのか、小さく微笑んだ。

「ありがとう、元気出た」

 そして波斗に笑顔を向けると、エレベーターに乗り込んだ。
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