不毛な恋模様〜傷付いた二人は、輝く夜空の下にて熱く結ばれる〜
 二人が部屋に戻ると、健がニヤニヤしながら待っていた。床に座って、缶チューハイを開けている。

「雨降って地固まった感じ?」
「た、健⁈ 帰ってなかったの?」
「お前、鍵開けたまま行っちまうからさ。不用心だなぁと思って待ってたんだ」

 紗世が呆れた目で波斗を見る。

「だ、だって早く紗世ちゃんを追いかけないとって思ったから……」
「もう……そういうところがかわいいんだから……」
「紗世ちゃん……!」
「はいはい、ノロケはよそでやってね〜」
「ここは俺たちの家だからノロケていいんだよ」
「あっ、本当だ!」

 紗世は心配そうに波斗を見た。こんな会話を健の前でして大丈夫なのだろうか。

 その視線に気付くと、波斗は紗世をソファに座らせて微笑んだ。

「実はさ、健には全部話したんだ」
「えっ……」
「健をずっと好きだったことも言ったし、紗世ちゃんとのことも話した」

 紗世は驚いて健を見る。健は紗世に心配させないように笑う。

「それで健にちゃんと振られて、紗世ちゃんへの想いにも気付いたんだ」
「そうそう。俺が財布に仕込んだゴムにも感謝してくれよ」

 健に言われ、二人は顔を真っ赤にする。

「波斗は抜けてることも多いからさ、紗世ちゃんがそばで支えてくれたら安心感だな。紗世ちゃん、波斗のことをよろしくね」

 紗世は恥ずかしそうに波斗の顔を見ると、彼は嬉しそうに紗世を見つめている。もう大丈夫なんだね……。

「先輩のこと、私が幸せにしてあげる。だから先輩もいっぱい私を幸せにしてね」
「もちろん!」
「も〜二人が幸せなのはわかったよ! 今日は様子が気になってちょっと寄っただけだからさ、また改めて集まろうぜ」

 そして健は立ち上がると、不敵な笑みを浮かべて波斗に袋を二つ渡す。

「お土産。お前あっという間に使い切りそうだからさ。じゃーな」

 健を見送ると、二人は袋を覗き込む。一つにはレモンサワーが五本入っていた。

 そしてもう一つの袋の中身に二人は思わず吹き出した。

「コンドームがこんなにたくさん……」
「先輩ってば、どんな話をしたんですか!」

 袋の中からは、種類の違うコンドームが三箱も出てきたのだ。

 波斗がモジモジしながら紗世に擦り寄る。

「紗世ちゃん……今日疲れてるよね……?」
「それよりお腹空いちゃった。カレー食べたいな」

 そうだ、紗世ちゃんは花より団子の人だった。波斗は笑いだす。

「温め直すからちょっと待ってね」

 台所に行こうとした波斗に紗世は後ろから抱きついた。

「腹が減っては戦はできぬって言うでしょ……?」

 波斗の目が輝く。

「いいの?」
「だってちゃんと想いが伝わった日だもん……」

 紗世の言葉に波斗は今すぐにでも押し倒したい衝動をグッと堪える。

「紗世ちゃん、今日は一緒にお風呂に入りませんか……?」
「それは嫌です」
「えっ、なんで⁈」
「……明るいのは嫌だから」
「かわいいのに……ねぇ、今日だけでいいからさ、入ろうよ」

 波斗にお願いされると断れない。

「……じゃあ今日だけ、特別ね」
「わぁっ! すぐ食べよう! すぐ準備するから!」

 私って本当に先輩に弱い。でもこんなに浮かれた先輩を見るのは初めてだったから、ちょっと嬉しい。

* * * *

 二人で入る浴槽はやはり少し狭く感じた。ただその分密着度も高く、触れ合う肌がもどかしい。

 波斗の足の間に座り、バックハグをされる。彼の手はさり気なく紗世の胸を覆っている。

「初めてのお風呂だねぇ。一緒に入るってこういう感じなんだ〜」

 波斗が満足そうに呟く。

「お湯の中だと、ただ抱き合うのとはまたちょっと違うよね……」

 波斗の手が紗世の体の上を滑る。背中には唇が触れる。ただでさえ暑いのに、体がどんどん火照ってくる。

「……するならベッドがいい……」
「わかった……でももう少しだけ……」

 波斗の指が紗世の中に入り込むと、一度だけ意識が飛んだ。

「もうっ……! 私ばっかり….」
「だって紗世ちゃん、かわいいんだもん……」

 紗世は首を傾けて、波斗にそっとキスをする。

 波斗は体の奥からキュンとする。紗世ちゃんのキス顔はヤバいんだよ……。

 波斗は貪るように紗世にキスをした。

「紗世ちゃん……かわいい……。次はベッドで一緒にいこう……?」

 紗世が頷くと、波斗は彼女の体を抱き上げた。

* * * *

 波斗は紗世をベッドに寝かせると、身体中に唇を這わせて行く。

「紗世ちゃん….好きだよ……」
「私も……先輩のこと……大好き……」

 すると波斗の動きがぴたっと止まり、紗世の顔を覗き込む。

「呼び方、変えない?」
「……先輩って楽だったんだけどな……」
「恋人同士の特別感が欲しいんだよねぇ……」
「呼び捨ては嫌よ。なんか嫌い」

 そういえば友達にも"ちゃん付け"してるよな。

「いいよ」

 紗世は少し悩んでから恥ずかしそうに呟く。

「波くん……は?」

 波斗は嬉しそうににっこり微笑む。

「すごくいいと思う」

 波斗は紗世の中に入ると呼吸が荒くなる。

「波くん……波くん……んっ……」

 名前を呼ぶ紗世の声がこんなにも愛おしい。絶対に離さないと心に誓う。

 波斗がベッドに倒れ込むと、紗世はおもむろに体を起こし波斗の上に跨る。

 その紗世の体を波斗手が優しく撫でながら、クスクス笑う。

「紗世ちゃん、この体勢好きだよねぇ……」

 紗世は波斗にキスをしながら、舌を絡めていく。

「うん……好き。波くんのこと見下ろしながらキス出来るんだもん……」
「そうなの? でも下から見る紗世ちゃんもかなりそそるよ……」

 紗世は波斗の顔を撫で、髪の中に指を滑り込ませる。

「この体勢になると、あの日のことを思い出すの。波君と私の始まりの日。気持ち良くて、キレイで……辛い日のはずが、幸せな記憶にすり替わっちゃった……感謝しかない日なの……」
「……紗世ちゃん、それは俺のセリフだよ。こんなに待ってくれてありがとう。俺を……好きになってくれてありがとう……」

 二人は抱きしめ合う。

 恋って本当大変。でも心も繋がり合えるとこんなに幸せなんだ。紗世は波斗の温かい腕の中で、人を好きになることの喜びを実感するのだった。
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