天才パイロットの激情は溢れ出したら止まらない~痺れるくらいに愛を刻んで~
 毎回フライト前には運行管理者が作成した飛行計画をもとに、その日の天候や飛行ルート、搭載燃料の量など、細かなところまで確認するのだ。

 今日はこれから福岡に飛び、またすぐに東京に戻ってくる予定だ。

 時間に余裕を持って打ち合わせを終えブリーフィングルームを出ると、「矢崎さん」と声をかけられた。

 振り返ると、やわらかな笑みを浮かべる芦沢がいた。

 副機長をしている彼は、俺より三つ下の二十九歳。
 立場的にも年齢的にも俺のほうが上だが、OJAに入社した時期は芦沢のほうがずっと早いので、上下関係はあまりなくフランクに話せる相手だ。

 同じ機体を担当しているので一緒に組んでフライトをすることもあるが、今日は別の便だ。

 これから飛び立つ俺とは反対に、芦沢はシンガポールから到着したばかりのようだ。

「今日のタワー、たぶんあの子でしたよ。声でわかった」

 そう言われ、俺は「あの子って?」と首をかしげる。

「前に搭乗訓練に来た、管制官の蒼井さん」

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