天才パイロットの激情は溢れ出したら止まらない~痺れるくらいに愛を刻んで~
「だからこそ、気持ちよく視察していただいて、よりよい労働環境に改善してもらうために、大臣の前ではおりこうにしてくれよ」
「はぁい」とそれぞれに返事をして立ち上がる。

 今日も一日頑張ろう、と思っていると後輩の富永さんが近寄って来た。

「蒼井さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫って?」
「なんだか最近元気がないから……」

 遠慮がちに言われ、「そんなことないよ」と笑った。

 無意識に首から下げている身分証に手が伸びる。
そして、そこにつけられたチャームにそっと触れる。

 翔さんからもらった、小さな鐘の形のチャーム。

 その鐘に触れていると、『ごめんなさい』と謝る私を抱きしめてくれた、翔さんの腕の温かさを思い出した。

 本当はパリで出会ったときから翔さんに惹かれていた。
 もし翔さんが違う仕事をしていたら、素直に好きですと言えたと思う。

 だけど、やっぱり私はパイロットと付き合うのは怖い……。

 そんなわがままで臆病な私を、彼はひと言も責めなかった。
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