天才パイロットの激情は溢れ出したら止まらない~痺れるくらいに愛を刻んで~
 そろそろ帰ろうかなと思ったとき、「里帆」と名前を呼ばれた。

 顔を上げると、そこには予想外の人物が立っていた。

「尚久……」

 少しバツ悪そうな顔で私を見下ろしているのは、元カレの尚久だった。

「相変わらず、ここが好きなんだな」

 そう言われ素直にうなずく。

 彼と付き合っている頃から、私は仕事終わりにここで座って行きかう人を眺めるのが好きだった。

 お互いの仕事が終わってからここで待ち合わせをして一緒に帰ったこともあったっけ。

 そんなことを思い出し、少しだけ胸が苦しくなった。

「うん。これから飛行機に乗り込む人たちを見ると、自分の仕事の重大さを感じられるから」
「本当に、真面目だな」

 彼はわずかに苦笑して、「座っていい?」と私にたずねる。

「どうぞ」

 私の答えを待ってから、ひとつ席を開けてベンチに座った。

 こうやって尚久とふたりで話すのはいつぶりだろう。
 懐かしさが込み上げる。

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