天才パイロットの激情は溢れ出したら止まらない~痺れるくらいに愛を刻んで~
 そんな俺を見て、里帆が「翔さん、どうしたんですか?」と首をかしげる。

「抱きしめてもいいか?」

 真顔で聞くと、「だめです」と即答された。
「どうして」
「どうしてって、ここはお互いの職場ですよ?」

 里帆は眉をひそませてから俺から目をそらし、「……誰かに見られたら恥ずかしいじゃないですか」と小さな声でつぶやく。

 照れているのか目元が赤く染まっているのが色っぽい。

「今更だろ。あれだけ大勢の前で愛を誓ったんだから」

 一昨日の滑走路上でのプロポーズは、空港で働く人のほぼ全員が知っていた。

 今日エンジントラブルの原因究明のため検証に立ち会うと、会う人すべてに『プロポーズしたんだってね』と声をかけられた。

「それはそうですけど……っ!」

 里帆の顔は真っ赤になっていた。
 たぶん里帆も今日一日、俺と同じような状況だったんだろう。

「でも、人前で抱きしめるのはだめです。ここは公共の場ですから」

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