天才パイロットの激情は溢れ出したら止まらない~痺れるくらいに愛を刻んで~
そんな中、セーヌ川に架かる石造りの橋の上に、ひとりの日本人女性がいるのに気づいた。
鎖骨の下辺りまである綺麗な髪と、すっと背筋を伸ばした立ち姿。
その姿を見て、まさか、という驚きが込み上げる。
以前から一方的に惹かれていた彼女を、日本から遠く離れたこんな場所で見かけるなんて。
こんな偶然、あるのだろうか。
人違いかとも思ったけれど、近づくたびにやはり彼女だという確信が強くなる。
彼女は橋の欄干に手を置き、足もとを流れる川をぼんやりと眺めていた。
華やかなパリの街の雰囲気にふさわしくない、暗い表情だった。
フランスまで来て、どうしてひとりきりでいるんだろう。
そして、どうしてそんな悲しそうな顔をしているんだろう。
そんな疑問が湧いてくる。
彼女はうつむきながら、頬にかかる髪を耳にかけた。
それまで髪に隠れていた横顔がはっきりと見えた。