天才パイロットの激情は溢れ出したら止まらない~痺れるくらいに愛を刻んで~
セーヌ川に架かる橋の上でぼんやりと水面を見下ろしていると、背中をどんと押されるような衝撃を感じた。
体が前によろけ、思わず短い悲鳴をもらす。
驚いて振り向くと、走り去る金髪の男の人が見えた。
どうやらあの人が私にぶつかったようだ。
謝りもせずに走り去るなんてひどい。
彼の後ろ姿を見ながら心の中で文句を言う。
そのとき「あれ」と気が付いた。彼の手には見覚えのあるバッグがあった。
「うそ!」
慌てて自分の手元を見る。
さっきまで肩にかけていた小ぶりのバッグがなくなっていた。
あの中にはお財布やスマホが入っているのに!
「それ、私のバッグ……っ!」
ひったくりだと気づいて声を上げる。
けれど周りの人たちはきょとんとした顔で私を眺めるだけだった。
それもそうだ。
ここはフランスで、日本語が通じるわけがない。