スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 照れながらも答えると、向こうで『ああ可愛い、今すぐ会いたい』と聞こえ、私は苦笑した。
 啓一郎さんの大きなため息が聞こえる。

『俺も紗雪のこと愛してる。今すぐ抱きしめてキスしたい』

 呟く啓一郎さんの声はいつもの愛してるに比べて少し低く聞こえる。
 電話で話しているせいだろうが、何故だかいつもよりこもった声に心臓が高鳴る。
  
 こうして啓一郎さんの声を聞くだけで脈が速くなり、それでも安らぎの気持ちを覚えるだなんて1年前には想像もしていなかった。

 前の生活にも未練がないと言い切ることは出来ない。
 大勢の観客の前で舞台に立ち、大好きなバレエを踊る。
 あの瞬間が人生で最高の時間だと思っていた。けれども今は違う。
 私にとっての今の最高は啓一郎さんとなんでもない話しをし、キスをして、そして抱き合って眠ることだった。

 啓一郎さんとの結婚という甘い檻は私の心を癒してくれた。

「私も逢いたいです。……早く帰ってきてくださいね。美味しそうなローストポークも見つけましたし、あったかい料理を作って待ってます。まあ、啓一郎さんよりも料理はまだまだ下手ですけど……」

『そんなことない。紗雪の作った料理が世界で一番美味しいよ。だから待ってて』

 甘い言葉に浮き足立つ。
 このあと長谷川くんの妹である沙彩ちゃんのことを話すと、どうやら啓一郎さんは知っていたみたいで。
 どうやら病院の廊下を歩いている沙彩ちゃんと何度か話したそうだ。
 彼女は好奇心旺盛で、調子の良い日は病院内の色々なところに出向いてたくさんの人とお話をしているそう。 
 沙彩ちゃんの話題で盛り上がったあと、私たちはお休みの挨拶をする。

 一人で寝るベッドはいつもに増して冷たかったが、啓一郎さんの心地よい声を思い出すとぐっすり眠ることができた。
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