スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 気がつくと薄暗い部屋にいた。
 どうやら私はベッドに寝かされているらしく、周囲を確認すると品のある家具が置かれていた。雰囲気からしてここはどこかのホテルだろうと予想する。

 口元に粘着テープが貼られており、ロープで後ろ手に縛られていた。
 助けを呼ぶことは出来なさそうだ。

 怖い。

 状況を見て、まず最初に感じたのは恐怖だった。私は誰かに拐かされたのだろう。

「お目覚めですか、お姫様」

 聞き覚えのある嫌悪感を感じさせる声が耳に届く。声の主に顔を向けるとよく見知った人物だった。

 梅本。

 啓一郎さんの大学の同期であるあの男だ。
 昨日会ったばかりの男。

 病院の敷地内だからといって油断していた。ここまでするとは考えてもいなかった。
 啓一郎さんにもあいつには注意しろと何度も言い聞かせられていたのに。

 私は段々と込み上げてくる怒りによって梅本を睨みつける。
 目の端からぽろりと涙がこぼれ落ちる。
 涙は悔しさと恐怖から無意識に出たものだったが、気にすることなく視線は逸らさなかった。こんな男には屈したくなかった。
 
「お姫様はどうやらご機嫌ナナメみたいだね」

 戯けた風に述べる梅本の顔には欲望と興奮が入り混じっている。
 梅本は私に近づき、口元に貼ってあった粘着テープを剥がした。
 ビリリと肌からテープが剥がれる痛みに余計涙が込み上げる。

 ようやく口元が解放されたが、私は一言も発しなかった。

「なにも話してくれないんだね。まあいいや、助けを呼ばれても面倒だし。まあこの部屋は防音設備整ってるし、叫ばれても全然平気なんだけど」

「……っ」

 悔しかった。
 この男が考えていることなど顔を見れば一発で分かった。
 梅本は私を犯したいだけ。何度もいやらしい視線ばかりを向けてきていたのだから流石に気がつく。

「最初はここまでするつもりじゃなかったんだけど……でもよくよく考えればあの蓮見の妻を犯すなんて最高じゃないって思ったんだ。俺、大学のときからずーっとあいつのことが大嫌いでさ」

 私の方へと近づき、ベッドは片足をかける。嫌悪感にベッドの上で後退りをする。
 梅本は気にした様子もなく、下品な顔で続けた。
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