スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 そうして翌日、俺のところに報告があった。

 『梅本がなにか動きそうだぞ』と。

 俺は急いで大阪駅へと移動し、新幹線で東京駅まで移動する。
 不幸中の幸いにも学会の責任者が突如食当たりを起こしたらしく、数日延期となったのだ。責任者には申し訳ないのだが、幸運だったと言わざるを得ない。
 

「待ってろよ、紗雪」

 悪い予感がした。
 不安で仕方がなかったが、紗雪に万が一のことがあればと考えただけで腹の煮えくりかえる思いだった。

 新幹線を降りた俺は駅内を歩きながら先程の電話相手にもう一度連絡する。数コールで出たあと、そいつは言った。

『駅から15分のビル街にある鷹羽橋ホテル。そこの906号室だよ』

 俺はタクシーに乗り込み、すぐに目的地へ向かう。絶対に紗雪を助けると決めていた。

 もし仮に梅本が紗雪に手を出していたなら────俺は感情を抑えることなどできないだろう。
 生まれて初めて手に入れた愛おしい存在を傷つけるものがあれば、容赦はできない。 
 地獄の底まで追いかけてぶちのめし、海の藻屑にしてやる自信がある。

 ちょうど街中で事故が起きたらしく、残り数キロのところで渋滞に嵌ってしまった。
 俺は聞こえないように小さく舌打ちをし、ポケットから一万円札を出す。

「ここで大丈夫です。お釣りはいりません」

「へ? え、あの……お客さん」

 戸惑いの表情を浮かべる運転手を置いて、俺は外へと飛び出した。
 走って走って、ここまで全速力で走ったのは学生のとき以来だ。

 息が切れて額から汗が落ちるのも気にせず、俺はホテルまで急いだ。

 ようやく目的地に到着した俺はフロントの中を突っ切る。

「ああ、あのお客様!」

 初老のホテルマンの戸惑う声にはっとし、俺は汗を拭いながら話しかける。

「このホテルの906号室。そこに俺の妻がいるはずなんです。どうか繋げて欲しい」

「ええっと……その、今……そちらの部屋の方は、えーっと外出されておいでで────」

 すぐに嘘だと分かった。目線が彷徨っている。
 どうやらこの男は梅本に買収されているのかもしれない。
 俺はぎりっと歯軋りし、そばにいた若い────おそらく新人だろう女性のフロントスタッフの目前へと移動する。
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