スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「あなたは何か知ってませんか?」

「わたしは、その……」

 暴力に訴えることもできただろう。だが、それをすれば気弱そうなフロントスタッフが萎縮して何も言わなくなってしまうと思った。

 だから俺はなりふりなど構わず頭を下げた。

「どうかお願いです。俺の妻が連れ去られてそこにいるかもしれないんだ。妻が大切なんだ」

 若いフロントスタッフは戸惑うように視線を揺らす。そして意を決したのか口を開いた。

「つい半刻ほど前に男が眠った女性を連れてきました。それで誰も近づけさせないようにって……大量のチップを渡してきて……おかしいと思ったんでわたしは受け取らなかったんです。でもマネージャーはそのまま受け取って……」

「おい、新人! 何を話しておる!」

「多分その眠った女性が俺の妻だ」

 怒鳴る初老のマネージャーと呼ばれた男を無視し、俺はフロントスタッフに訴える。

 どうか鍵を開けてくれないかと。

 良心が残っている彼女はこくりと頷き、引き止めようとするマネージャーを置いて一緒にエレベーターへと乗った。

 上に登るまでのたった数秒でも今は惜しい。

 俺は唾を飲み込み、心の中で願った。

 どうか紗雪が無事でありますようにと。梅本がなにかするというのも勘違いであることを。

 ようやく906号室の扉の前にたどり着き、フロントスタッフに鍵を開けてもらう。

 そこには紗雪と────彼女に覆い被さる梅本の姿があった。
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