スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「紗雪っ!」

「啓一郎さん!」

 涙を目に浮かべて助けを呼ぶ紗雪の姿を目にし、俺の頭には血がのぼる。
 駆け出そうと部屋の中に入るが──。

「くるんじゃねぇ」

「……きゃぁっ!」

 梅本はあろうことか紗雪をベッドから引き摺り下ろし、自身の所有していたであろう折りたたみナイフを持ち出す。
 そしてそれを紗雪の首元へと近づけたのだ。

「紗雪っ!」

 助けようと手を伸ばすが梅本の持つナイフがより紗雪の首元へと近づく。
 切れてしまったのか、紗雪の真っ白な首から一筋の血が流れ落ちた。

 俺は思わず叫びそうになる。
 だがここで不穏な動きを見せることは紗雪の命にも関わることで。

 フロントスタッフの女性も顔を蒼白にして佇んでいる。どうやら彼女を押しのけて先に俺が部屋へと入ったせいか、梅本はその女性の存在に気づいたないようだった。

 俺は後ろ手に助けを呼びに行けと合図を送る。混乱している女性に伝わるかどうか分からないが一か八かだ。

 どうやら背後から走り去る足音が微かに聞こえたため、その女性が助けを呼びに行ってくれたことを理解した。
 あとは警察が到着するまで時間稼ぎを──。

「ははは……いい気味だ。お前のそういう顔見るのは初めてだけど、スカーっとすんな」

「……っ! 一体何が目的だ。そんな物騒なものまで持ち出して」
 
 睨みつけるように視線を送りながら言った。
 正直この状況で時間稼ぎなんて言っている場合じゃないと感じる。
 目の前の愛する人がナイフを突きつけられて震えているのだ。犯人──梅本が許せなかった。今にもぶちのめしてやりたいほどに。
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