スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「お前がここにこなきゃ奥さんと楽しいことをするっていう目的だったんだがな。いいところを邪魔しやがって」

「人の妻を勝手に拐って、そして犯す? お前はどれだけ罪を重ねれば気が済むんだ? 仮にも医者だろ」

「それ、さっき奥さんにも言われたわ。やっぱり夫婦って似るもんなんかね? ……はぁ、反吐が出る」

 梅本は口元からぺっ、と唾を吐き出し嫌悪感を催すようなニヤリとした笑みを浮かべた。
 そうして──紗雪の首元から垂れる血を真っ赤な舌で舐めとった。
 怒りで頭の中が真っ赤になり、思わず飛び出そうとしてしまう。

「……おっと、近づくなよ。奥さんがどうなってもいいのなら別に構いやしないが」

「……っ」

 紗雪は恐怖で顔を歪めている。  
 その様子を見て俺は奥歯をグッと噛み締めた。今ほど自分の無力さを実感したことはなかった。

「……どうしてこんなことするんだ」

「別に特に意味はなかったんだが……まぁある意味ではお前の──蓮見のそういう屈辱に顔を歪める姿が見たかったっていう理由もあるかな。……俺はお前のことが昔からムカついて、大っ嫌いだったから」

 梅本は嘲るような視線を視線に向けながらも、今は優越感に浸っているようだった。
 
「ああ、一ついいことを思いついた。……お前、億さんを助けたいんだろう? ……なら、こいつで────死ねよ」

 梅本はそばにあったウェルカムフルーツ用のナイフを床に落とし、俺の方へと蹴飛ばす。
 言葉を聞いた紗雪は目を見開き、ガタガタと震えた。

「な、何言って……やめて、啓一郎さん絶対そんなことしない──」

「うるせぇ! 奥さんは黙ってろ」

 思わず叫んだ紗雪に対し、梅本はナイフを持っていない方の手でその細い首を締め上げる。
 キツく締められてるのか、紗雪は苦しそうにうめき声話あげた。

「おい! やめろ! 紗雪に手を出すな!」

「それならさっさと死ねよ」

 梅本のその表情からは『どうせ他人のために死ぬなんてできない』という感情が伝わってくる。
 この男はただ、この場を楽しみたいだけなのだ。

「…………こ、こんなことして……捕まるのわから、ないんですか……っ!」

 紗雪は片手で首を掴まれながらも、梅本に対して諭すように言う。
 だがその当人である梅本は突如吹き出すようにして笑い出した。

「俺は捕まらないんだよ。何をしてもな。これまでだってそうだった。目撃者はお前たちしかいないし、どうせこれも親父が揉み消す」

「……っ私はどんなにこの件が、揉み消されても……けい、いちろうさんが死ぬような目に合えばっ…………絶対にあなたを許さない」
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