スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「どうしたんだ! な、何があった!」
「きゃぁぁぁ!」
「退きなさい、警察です」

 部屋の外で野次馬が集まっていることがわかる。どうやらフロントスタッフが警察を呼んでくれたようで、バタバタと数人の警察官が近づく足音が聞こえる。

「け、啓一郎さんを……た、助けてください!」

 泣きながら傷口の血を止めようと服の上から抑える紗雪。
 それでも抑え切れない血液が溢れ出す。

 手足は冷たいのに腹は暑くて仕方がない。

「さ、ゆき……俺は大丈……夫。だ、から……泣か、ないで……」

 ぽろぽろと雫が落ち、俺の顔を濡らす。
 紗雪の膝に頭を乗せられた俺は、ゆっくりと彼女の顔に手を伸ばす。
 そして涙を流し続ける紗雪の目元を拭った。
 
 慌てる警察官たちは容疑者────気絶している梅本に近づくが、どうやら目覚めたらしい彼が暴れ始めたために数人がかりで取り押さえているようだった。

「それよりも……け、啓一郎さん。もうすぐ救急車来るから、だ、大丈夫……絶対助かるよ」

「うん…………」

 答えるが、段々と瞼が落ちてくる。
 新たにそばに駆け寄る人間の気配がする。

「おい、啓一郎! 刺されるなんて聞いてないぞ! 奥方、応急手当てするから清潔な布と水、用意して!」

 てきぱきと指示をする声────友人の熊沢だった。

 医者の熊沢に指示された紗雪は「……はい!」と涙ながらに答える。
 
 ああ、これなら大丈夫だ。

 安心した俺は一気に体の力を抜く。
 熊沢がまだなにか言っているが、耳に届かない。とにかく眠くて仕方がなかった。

 そのまま、俺の意識は暗闇に閉ざされた。
< 115 / 141 >

この作品をシェア

pagetop