スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜

「新婚旅行?」

 私は啓一郎さんの言葉を繰り返す。
 そういえば世の新婚さんは行くものなのかと私は納得する。

 患者と主治医という関係から一足飛びした夫婦であっても、世の中の常識と照らし合わせればいくものなのだろう。

「紗雪は新婚旅行、行きたくないか?」

「ええと……」

 なんとなく啓一郎さんの声音がトーンダウンしたようで。
 目を瞬いて凝視すると不思議としょんぼりしているようにも見えた。

 まるで犬みたい、と妄想の中に犬の尻尾と耳を思い浮かべて軽く吹き出す。

「いいえ、新婚旅行行きたいです」

 そう答えると啓一郎さんの顔が分かりやすくパッと明るくなった。
 喜怒哀楽のわかりやすさにくすりと笑いながら、私は尋ねる。

「どこに行くとかは決めてますか?」

「うん、色々考えたんだけど……やっぱりせっかく日本に帰ってきたんだから日本のゆっくりできるところがいいかなって。ハネムーンは海外に行く人が多いみたいだけど、あんまり遠出すると紗雪の身体も心配だし」

 そう言って私の右足に手を当てる。
 松葉杖は必要なくなり普段の歩行はある程度出来るようになった。

 けれども雨の日など湿度の高い日や過度に歩いた日は痛みを訴えることもあり、完全回復とまではいってない。
 もちろん踊ることは難しい。

「だから良ければ体を癒せるところ────温泉地に行くのはどうかな。怪我に効く効能のある有名な秘湯があるんだけど」

 啓一郎さんは慈しむような視線を向けて言う。
 
 彼は優しすぎる。
 その気遣いに勘違いしてしまいそうだった。

 ────自分が愛されているのだと。

 心が苦しくてたまらなかった。
 私は「ありがとう」と口にした。
 それ以上、言葉が出なかった。

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