スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「啓一郎さん、包帯は私が巻きます」

「紗雪が?」

 病院では自宅から衣服等を持ってきたり、必要な書類にサインしたりするだけで看病は自分の仕事ではなかった。
 けれどもそもそも啓一郎さんが刺されてしまったのは私を庇ったからだった。それなのに何もできないというのはもどかしいもので。

 それならば包帯くらい巻いて役に立ちたいと考えたのだ。

「啓一郎さんみたいに上手くできるか分からないんですけど……よければ……」

「うん! 是非お願いできるかな?」

 どうやら啓一郎さんは私の行動に好意的なようで、嬉しそうに包帯を差し出す。どこかにやけているように見えるのは目の錯覚だろうかと考えながら、ソファに掛けている啓一郎さんの前に跪いた。

「それじゃあ失礼します……」

 私は啓一郎さんの広い背中に手を回し、包帯を巻いていく。思ったよりも肌との距離が近く、気づかれないようにコクリと生唾を飲んだ。

 出来うる限りの丁寧な手つきを心がけながら巻いていると、啓一郎さんは私の頭を撫で出す。驚いた私は手を止め、啓一郎さんを見上げた。

「な、なんですか突然……」

「いやぁ……なんていうか、こうやって紗雪にお世話されるのもいいなって思ってさ。いつもとは違う環境だから特別感あっていいなって」

「きょ、今日は私がお世話する日って決めてますから。退院したばかりなんですし、なにかあれば言ってくださいね」

 私は手の作業を再開する。自信満々に宣言してみると今日はなんでも出来そうな気持ちになる。

「そう言うのなら全部紗雪に任せようかな。ね、紗雪センセイ?」

「……っ」

 私は言葉の深い意味まで悟り、瞼をぎゅっと閉じた。そんな私の様子を見て、啓一郎さんは包帯を巻いている私の手を取る。
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