スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 私はすぐに眠れなかった。
 心と身体が満たされて、この幸福な時間をもっと味わっていたかったからかもしれない。隣には啓一郎さんの温もりがあり、それだけで幸せだった。

 積み重ねてきた時間は短いが、私にとってのこの夫婦生活はすでに自分の人生になくてはならないものとなっていた。

「眠った?」

 啓一郎さんは私が眠れないことに気がついたのか声をかけてくる。その声に私は啓一郎さんの胸に顔を寄せて頭を横に振った。そして顔を上げる。

 そばには啓一郎さんの整った顔があり、息のかかる距離だった。私たちは自然と指を絡めて手を繋ぐ。

「紗雪はさ……子ども欲しい?」

「………………啓一郎さんは?」

 いきなりの質問に内心驚いた私は答えることなく、質問に質問を返す。
 
 本音を言えば、啓一郎さんとの子どもならば可愛いだろうし欲しいとも思う。授かることがあるならば絶対に産みたいと思っていた。
 けれど啓一郎さんはどうなのだろうかと不安に思ってしまい、曖昧に濁した。彼は自分の大切なものを増やすことに怯えてしまうかもしれないと思ったからだった。

「…………俺、は…………紗雪との子どもだったらほしいよ。俺たちの天使が授かったらどんなに嬉しいことか」

「私も……同じ気持ち」

 嬉しかった。
 啓一郎さんが自分との子を求めてくれているということが何よりも心を満たしていく。

「私、決めたことがあるんです」

 啓一郎さんと絡め合う指に少しだけ力を入れ、下唇を噛んだ。この言葉を伝えることに勇気が必要だったから、その決意を伝えたかったから。
 啓一郎さんは「どうした?」と優しく呟く。
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