スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
新婚旅行
「うわー、すごい! こんな綺麗な旅館、私泊まったことない!」
啓一郎さんの運転で車を3時間弱走らせ、ついたのは木造建のいかにも高級旅館と呼ばれる建物だった。
旅館に入るとすぐに女将さんが出てきて、深々と挨拶をしてきた。
「蓮見様、ご夫人の紗雪様。本日は当旅館にお越しくださり誠にありがとうございます。特上客室である『空雲の間』をご用意しておりますので、ごゆるりとお過ごしくださいませ」
その格式ばった挨拶に一瞬気遅れするものの、隣にいる啓一郎さんを見て安心する。
そして部屋へと案内の道中に旅館や周辺地理についての様々な説明を受けた。
「ここが『空雲の間』でございます」
そう言って女将さんは正座で深々と頭を下げ、部屋を退出した。
着いた部屋は広々とした美しい和室だった。
私は初めての旅館にワクワクしながら啓一郎さんと共に部屋を見て回る。
中には開け閉め出来そうな大きな窓があり、私は外に出た。
「すごいです、部屋にも露天風呂がついていますね」
私は目を丸くした。
ただの客室にこんなに豪華な露天風呂があるだなんて、一体一泊どのくらいの値段なのだろうと考え私は身震いする。
啓一郎さんは微笑みを浮かべて、そばにあった私の手を握る。
まるで熱々な恋人のように指と指が絡まり合い──私は驚き身を硬くした。
そんな私を傍目に啓一郎さんは耳元に口を寄せる。
「一緒に入ることも出来るね。──俺、紗雪と混浴したいな」
急激に体の温度が上がった気がして、私は「それはあとで考えます!」と言い残し部屋へと戻った。
私と啓一郎さんは東北地方にある秘湯のある旅館に新婚旅行で来ている。
ちなみに啓一郎さんが新居とともに購入した外車は値段を聞くのも恐ろしい黒塗りのものだ。
啓一郎さんの親戚や私の両親に挨拶をしに行く際初めて乗ったのだが、黒塗りの外車なんてものに初めて乗った私は肩身の狭い思いをするほかなかった。
けれどこの新婚旅行での数時間でようやく慣れてきていた。
「紗雪、道中疲れてない? 身体は平気?」
露天風呂のあった場所から戻った啓一郎さんが私のそばに腰を下ろしながら言う。
「はい、啓一郎さんが色々話しかけてくれたおかげで疲れよりも楽しくて……むしろ時間が短く感じました。ありがとうございます。私のことより……啓一郎さんこそ何時間も運転していてお疲れなんじゃありませんか?」
「平気だよ。仕事で何時間もオペしたりすることあるし、体力だけは人一倍あるからね」
啓一郎さんの顔は嘘を言っている様子はなかった。
私はその整った顔を見ながら考える。
たとえ妻であろうとこんなにもよくしてもらっていいのだろうか。
私は何も返せていないのではないか──と。
少しだけナイーブになりかけた私に啓一郎さんは口を開く。
「混浴、考えてくれた?」
「…………~~っ! もうっ! 啓一郎さんのえっち!」
私は顔を赤くしながら啓一郎さんの肩を叩いた。