スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 バージンロードを歩く私の隣には父がいて、その手を離れて啓一郎さんの元へ歩く。
 周囲には招待客たちが私たちを祝福するように見守っている。

 お世話になったステファニアさんと熊沢さん夫妻も今日という日を祝うために駆けつけてくれた。ステファニアさんの隣で体調を気遣う熊沢さんの姿が目に浮かぶ。

 左手には長谷川くんと、その妹の沙彩ちゃんがいた。
 沙彩ちゃんの体調のことを考えると出席は難しいと思っていたが、どうしても行きたいという意見を押し通し、もし体調が良ければ、かつ短時間ならばという条件で病院から許可された。
 
 招待客の中に啓一郎さんの同僚の方々────お医者さんも多いため、滅多なことがなければ心配はないだろう。
 
 そんな沙彩ちゃんはというと、冬前に心臓の手術をすることが決まったという。なんでも世界有数の腕を持つ外科医が沙彩ちゃんの手術を引き受けてくれたということで、急遽決まったとのことだ。

 神の手と呼ばれる医者ということで、不可能と呼ばれていた手術を数々とこなしてきた天才医師らしい。
 成功率50%と呼ばれていた手術も少しは安心して任せられると長谷川くんは顔を綻ばせていたことが思い出される。

 みんなそれぞれ未来に向かって動き出しているのだ。

 私は啓一郎さんの隣に並ぶ。
 そうして牧師さんがそれぞれ私たちに問いかけた。

「新郎、啓一郎さん。新婦、紗雪さん。あなたがたは健やかなるときも、辞めるときも、互いを敬い、共に助け合い、愛し合うことを誓いますか?」

「はい、誓います」

 啓一郎さんの心地よく澄んだ声がこだまする。私も牧師さんに顔を向けて頷く。

「はい、誓います」

「その言葉、承りました。それでは言葉に対する誓いのキスを」

 その言葉に私と啓一郎さんは互いに向かい合った。視界を遮っていたベールをあげられると、鮮明に愛おしい啓一郎さんの顔が目に入った。

 私は少しだけ緊張していた。
 多くの人に見られながら口づけをするということに。

 啓一郎さんはそんな私の心に何がついたのか、ふわりと微笑みを浮かべる。
 まるで「大丈夫だよ」と諭されているようで、自然と心が落ち着いてきた。
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