スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
私たちは露天風呂の前に、近くの足湯に足を向けていた。
今は春。
街へと続く並木路には桜が咲いており、観光客が押し寄せている。
啓一郎さんは徒歩で移動すること心配してくれたが、今日は朝からずっと痛みもなく調子がいい。
せっかくであれば旅館周辺の街を散策したいと考え、足湯へと赴くこととなったのだ。
風光明媚な自然と古き良き街並みを楽しみながら歩いていると、すぐに足湯へと到着する。
私は履いていたロングスカートの裾を膝までたくし上げ、白く濁るお湯に足を浸す。
少し熱めのお湯がつま先をあっため、私は気持ちよさに小さく息を吐いた。
隣に並ぶ啓一郎さんと「あったかいね」と笑い合う。
一緒に足湯に浸かっていると、私はふと疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
「そういえば……啓一郎さんって私の舞台観たことあったんですね」
「えっ…………あ、ああ。そういえばそんなことも言ったね」
何故か照れて目線を逸らす啓一郎さん。
私は頭を傾げた。
「俺、実は紗雪がオペラ座のバレリーナだってこと最初から知ってたんだよ」
「そうなんですか?」
「以前、知り合いに連れられてオペラ座のバレエ公演を観に行ったことがあって。日本人ダンサーって結構珍しいだろう?」
確かに私が所属していた間でも、他に日本人は2人しかいなかった。
基本的に西洋人の多いバレエ団の中ではアジア人はかなり目立つ。
私が所属できたのも、とあるコンクールで入賞した際の踊りをオペラ座バレエの関係者が観てくれており、是非今度外部生の入団オーディションがあるから受けてみないかと誘われたためだった。