スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
夕食を取り終わり、私たちは各々露天風呂へと入浴した。
啓一郎さんは冗談混じりに混浴しようと言っていたが、流石にそれは恥ずかしくて私は断固拒否したのだ。
そのときのしょぼくれた顔は忘れられない。まるで母親に見捨てられた子供のような顔をしていた。
見ていられなくなり、もし水着での入浴が可能だったらと言葉を漏らすと啓一郎さんは目を輝かせていた。
……選択を間違ってしまったかもしれない。
内心そう思ったが、喜ぶ姿をみていると許してしまう私はすでに絆されているのだろう。
そうしている間にも太陽は沈み、夜を迎える。
私たちは露天風呂の隣に併設してあるバルコニーで外を眺めていた。
露天風呂ばかりに気を取られていたが、そのバルコニーからの眺めも感動するものだった。
旅館周辺は自然あふれる森が広がっているが、ここからは遠くの街の光が見える。
そして空には満天の星。
澄んだ空気だからなのか、東京やパリで見たどんな星より何倍も輝いているように感じた。
景色を見ているとまたあの頃の記憶を思い出してしまうい、沈みがちになる。けれど、パリで一人きりだった頃に比べて心は軽かった。
隣には揃いの浴衣を着た啓一郎さんが立っている。
その横顔を見て、私の空っぽだった心はいまだけ満たされているように思えた。
「ねえ、紗雪」
「どうしたの啓一郎さん?」
「少し待ってて」
そう言って一度部屋へと戻る啓一郎さん。
いつもよりも硬い声色に私は不思議に思い、目を瞬く。
戻ってくると、啓一郎さんはなにやら右手に白い箱を持っていた。
そして私の目の前でそれを開ける。