スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜

「これって……」

 私は息を呑む。

 そうこれは────。

「結婚指輪だよ。遅くなってごめん。特注で作らせていたんだ」

「……っ」

 言葉が出なかった。
 夫婦として籍入れたが、私たちは本当の夫婦なのかといつも不安に思っていた。けれど啓一郎さんはちゃんと指輪まで用意してくれていた。

 私の左手を取り、薬指にはめる。

 シンプルだけれど丁寧なつくりのリング。
 私はそれを空に掲げてる。自然と涙が溢れてきた。

 私たち夫婦がどういう関係なのかいまだよくわからない。恋人の延長線上でもないし、お見合いでもないから。
 
 だからこの指輪が啓一郎さんとの深い繋がりのような気がして、私は嬉しかったのだ。

「紗雪、これからも大切にするから」

「うん……ありがとう、ございます……」

 優しい抱擁に心が温まる。
 私は啓一郎さんの背に手を回した。

 甘くて苦い、清潔感のある大人の男性の香りがした。

「結婚式も年内にはやろう。俺、紗雪のウエディングドレス姿みたいな」

「……いいの?」

 私は手をほどき、至近距離の啓一郎の瞳を覗く。彼は「もちろん」と言って私をもう一度抱きしめる。

 左手の結婚指輪の存在をより強く感じ、目が潤んだ。

「良ければ俺にも指輪をはめてくれないか?」

 密着していた体が離れたあと、啓一郎さんは指輪ケースの中のもう一つのリングを渡してきた。
 私は頷き、そっと左手を握る。そして薬指にはめた。

 啓一郎さんは私の頭を引き寄せ、ちゅっと頭部にキスを落とす。
 再び啓一郎さんの香りを感じ、安心する。

 あの頃の心細さなど今この瞬間、微塵も感じなかった。

「そういえば私の指輪のサイズ……どうやって知ったの?」

「それは────企業秘密」

 口元に弧を浮かべる啓一郎さん。
 私が「なんでよ」と言って笑うと、釣られて啓一郎さんも口を綻ばせる。

 とても幸せな時間だった。

 今考えれば、何も知らなかったこのときがある意味私にとって一番幸福だったのかもしれない。

 
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