スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
しばらく優しい時間を過ごした私たちは部屋へと戻り、少しダラダラしているともう眠りにつく時間となった。
この『空雲の間』には特上客室だという通り、部屋が複数ある。
そのため私たちが食事をしている間に従業員の方が隣室に布団を敷いておいてくれていた。
私はいつもと違う環境で眠れそうにないかなと思いながらも隣室へ移動する。
「それじゃあ……お休みなさい、啓一郎さん」
「おやすみ紗雪」
並べてある布団の一つに潜り込む。
隣の布団にも啓一郎さんが潜り込んだ気配がした。
月明かりが障子紙に差し込み、いつものような真っ暗な部屋ではない。
私は眠ろうとぎゅっと目を閉じる。
だがいつもと環境が異なるせいなのか、はたまた左手の薬指に意識が向いているためか、なかなか眠ることができない。
以前なら部屋が変わっても眠ることが出来ていたのに──と思いながら、部屋の環境以外にいつもと何が違うのかと考える。
そうだ、いつもは啓一郎さんと一緒に寝ていたじゃないか。
私は身体をぎゅっと丸めた。
やけに外の風音が耳につく。
いつのまにか私は啓一郎さんの温もりがなければ眠れなくなっていたのかもしれない。
現に部屋の温度は寒いわけでもないのに、どうしてか全身が冷えているような気さえする。
新居に越してきてからというものの、常にダブルベットで抱き合って寝ていた。
肉体関係は未だないものの、それが日課だった。
子供じゃないんだからと自分に言い聞かせ、私は寝返りを打った。
すると。
「……紗雪、眠れないの?」
優しい声が聞こえる。
大人であればそんなことないよ、と答えるべきなのかもしれない。
それでも私は──。
「…………はい」
さらに強く目を瞑りながら答える。
まるで子供のようで恥ずかしく思った。
だがそんな私の心と通じるように。
「俺もだよ。いつもは紗雪を抱いて寝てるから寂しい」
「うん」
「……ねえ、よければ────」
啓一郎さんは予想外なことを言い出した。
私は最初恥ずかしいからだめだと断ったのだが、「行きにずっと運転してきたご褒美」と言ったせいで最終的に断ることが出来なかった。
私は布団から出て正座をする。
そして照れながら太ももをぽんぽんと叩いた。
啓一郎さんも起き上がり、私に近づく。
そして──。
「紗雪の膝は心地いいね」
「今日だけですからね」
啓一郎さんがおねだりしてきたのは膝枕だった。
ちょうど短く整えられた黒髪が浴衣越しにあたり、温もりを感じる。背の高い啓一郎さんを見下ろす経験など滅多にないので新鮮だ。
啓一郎さんはリラックスしているのか目を閉じている。右目付近にある黒子がかわいいな、と心の中で思った。