スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
新婚挨拶
 その催しは都内の会場にて行われた。

 若手医師による懇親会──いわゆるコミュニティ作りや議論を交わすための社交パーティーといってもいい。

 日本全国の将来有望な医師を一挙に集めて切磋琢磨してくださいという名目で開かれていた。

 年齢層は20代から30代ほど。
 稀に大学生らしき人間もいるが、やはり顔ぶれは若い。
 
 そんななか、私は啓一郎さんの隣でがちがちに身を固くしていた。


 身を包むのは淡い水色のマーメイドタイプのドレスで、足先まですっぽりと隠している。
 明るい色ではあるものの、同時に落ち着いた雰囲気も感じさせるそのドレスをみたとき私は感嘆の息を漏らしてしまった。

 舞台での衣装──チュチュと呼ばれるバレエ様の舞台衣装を着ることがあり、煌びやかな衣に身を包むことは慣れているはずだった。  
 だがそんな私にとってもこのドレスは心惹かれるデザインだ。

 そして首元には青い宝石──サファイアのネックレスをし、足元は負担をかけない構造になっている低めのヒール。
 ほぼぺったんこと言ってもいい靴だが、床ぎりぎりまで覆い隠すドレスによって見えない工夫が施されていた。

 これらすべて啓一郎さんが私のために用意してくれたものだ。
 懇親会にドレス着用が必須だと聞いた当初は戸惑ったが、啓一郎さんは「それじゃあ俺に贈らせてほしい。きっと似合うものを用意するから」と言ってくれたので甘えてしまった。

 隣に立つ啓一郎の横顔を見つめる。
 いつもの格好とは異なり、スーツに身を包んだ姿はとても凛々しい。
 普段はしないような額をあらわにするような髪型もよく似合っていた。

 私は心臓をバクバクさせながら啓一郎さんの隣を歩く。
 啓一郎さんと共に歩いていると何度か話しかけられることがあった。
 
 話の内容は専門的でよく分からないことも多かったが、啓一郎さんがこの医学分野でもかなり有名な人材なのだということがわかった。

 以前とある外科手術における革新的な論文を発表し、たちまち注目されるに至ったそうだ。

「蓮見先生……この方はもしや?」

「ええ、私の妻の紗雪です」
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