スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「梅本先生、申し訳ないのですが妻の顔色が悪いので少し休ませていただくため、一度この場を失礼させていただいてもよろしいでしょうか?」

 恐ろしく冷えたは啓一郎さんのものだった。
 そんな声色を初めて聞いた私は驚きで立ちすくむ。

「……ええ、分かりました。またいつかお話ししましょう」

「ええ、さようなら」

 梅本はその様子に気圧されたのか、あまり納得した様子ではなかったものの渋々この場を後にした。私も啓一郎さんに腕を引っ張られて会場の外に出る。
 掴まれた手が熱く感じた。
 周囲には人ひとりいなくなった場所で啓一郎さんは開口一番に言う。

「ごめん、すぐに助けられなくて」

「そんな! 啓一郎さんは助けてくれくれたじゃないですか」

 美貌を歪めて話す啓一郎さんに対し、私は大きく首を振る。梅本の前で感じていた気持ち悪さはもうない。

 啓一郎さんは「それでもごめん」と何度も私に伝えてきた。

「あの人────梅本先生は大学からの同期なんだけど、昔から綺麗な女に目がなくて。恋人がいようと夫がいようとターゲットになった女の人にちょっかいをかけてさ。周囲の人間にすごい迷惑をかけてたんだ」

「……そうなんですね」

「しかもあの人の父親が関西にある有名大学病院の院長で。何かあるとすぐ揉み消すんだ。…………紗雪、絶対にあの人に近づいては駄目だよ。ほんとこんなところに連れてきたのが間違いだったかも」

 そう言って啓一郎さんは頭を抱えた。
 
 私が梅本に目をつけられなければ、今頃啓一郎さんは懇親会で有益な時間を過ごすことが出来ていただろう。心臓がちくりと痛みを訴える。
 
 そんなネガティブな思考に落ちてしまった私に気づいて、温かい手が頭を撫でる。

 子供扱いをされた気になって少しだけムッとしたが、それでも心が落ち着いてきた。
 ……私としても単純なことだが。
 
 結局、私たちは帰ることになった。
 啓一郎さんは「こんな場所に紗雪に置いておくことなんてできない」と過保護なことまで言い出したからだ。

 そうして私たちは帰ることを伝えに主催者の方に伝えようと会場へ向かって歩き出した。

 そして会場にたどり着いてすぐ──。

「あれっ、啓一郎じゃないか! 久しぶり、元気だった?」

 啓一郎さんに声をかける人物がいた。
 呼んだ人物は30くらいの男性であり、その隣にもう一人寄り添う金髪の女性がいた。
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