スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「あ、あの……ステファニアさんってもしかしてバレリーナの……」
「ええ! よく知ってるわね。ワタシ2年前に引退したのだけど」
「私も実はパリ・オペラ座バレエに所属してたので」
そういうとステファニアさんは目を丸くする。
ステファニア・グロウ。
彼女は2年前までパリ・オペラ座バレエ団でエトワールを務めていた有名なバレリーナだった。世界に名を馳せており、バレリーナを志すものならば誰でも知っているほどである。
私も幾度か練習場で見かけたことがあるが、同じ舞台に立ったのは彼女────ステファニアの引退公演の一度きりだった。
ただ同じ舞台に立ったことがあるが、団の中でも末端であった私のことを覚えているはずがないだろうが。
当時、まだまだ現役継続が可能だったにもかかわらず電撃入籍、かつ引退をしたのはバレエ界に激震をもたらした。
私もずっと憧れを抱いていたため、そのニュースに気を落としたことは記憶に新しい。
「そうだったのね! 嬉しいわ! それもあの引退公演にも出ていて、夫の親友の奥さんなんてなんか運命感じちゃう!」
憧れを抱いたいた事など伝えると、思った以上に喜んでくれたステファニアさんに私も心を躍らせた。
楽しく盛り上がっている私たちに熊沢さんが横から声をかけてくる。
「ああ、あの公演か! 啓一郎の奥方も出ていたんだな! …………そういえばあの公演って啓一郎も無理矢理連れてったような」
「そうだよ。もうすぐ結婚する婚約者の最後の舞台だからって関係ない俺まで連れてかれて」
「だって俺の妻になるんだぜって自慢したかったんだもん」
そう言って熊沢さんは腰に手を当てて威張る。その面白い仕草に私もステファニアさんもクスリと笑った。
どうやら啓一郎さんの友達である熊沢さんは愉快な人のようだ。
そしてそんな面白い人がステファニアさんの夫であった。